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東京高等裁判所 昭和26年(う)4483号 判決

控訴人 被告人 長内長六

弁護人 対馬郁之進

検察官 野本良平関与

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人対馬郁之進の控訴理由は、末尾に添付する別紙の控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。これに対し、当裁判所は次のように判断した。

まず論旨第一点について。そもそも控訴審はいわゆる事後審であつて続審でもなく覆審でもない。そうしていわゆる事後審とは第一審の判決が判決当時の法律に従つて毫末も遺漏なくなされたかどうかを審査することをいうのである。だから控訴審において第一審の判決を違法なりとして破棄することのできるのは、第一審判決がその当時における法律に違反していると認める場合であつて、判決後の法律乃至は法律上の効果の変更を考慮して判断するのではない。論旨第一点は控訴審の本質を弁えざる所から出た主張であつて、もとより採用に値しないのであるが、該論旨の理拠として主張する刑法第二七条と同法第四五条後段との関係に関する所論はまつたくの謬論であつてとうてい首肯しがたい。なぜならば、刑法第二七条の「刑ノ言渡ハ其効力ヲ失フ」というのは、刑の言渡が法律上の効力を失うの意であつて、従つて法律上刑の言渡のあつたものとして取扱うことができなくなるというにすぎず、刑の言渡のあつた事実そのものを消滅させるというのではない。ところが刑法第四五条後段に「確定裁判アリタルトキ」というのは確定裁判を受けたという事実のあつた場合を指すのであつて、その確定裁判の法律上の効力如何とは何等相関するところはないのである。従つて確定裁判による刑の言渡が右第二七条の定める所によつて、その法律上の効力を失つたとしても、その確定裁判を受けた事実そのものが歴史的に実在する以上、右第四五条後段にいわゆる「確定裁判アリタル」場合に該当するものとして処理すべきはむしろ当然であるといわなくてはならない。所論はまつたく、この理を知らざる所から出たものであり、これを謬論という所以である。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 渡辺好人)

弁護人の控訴趣意

第一、原判決は法律の適用に誤があつて其誤は判決に影響を及ぼすことが明かである。

被告人は原判決記載の通り昭和二十四年二月十八日新宿簡易裁判所に於て窃盗罪に依り懲役一年執行猶予二年の判決を受け右判決は同年三月四日確定したるものなる処原判決は被告人に対し

判示第一の行為中(中略)の各罪は前示確定判決のあつた犯罪と刑法第四十五条後段の併合罪の関係にあるから同法第五十条に則り、まだ確定判決を経ざる右各罪に付処断すべきであるが、以上の各罪は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文同第十条に従い(中略)被告人を懲役三年に、更に判示第二の行為(中略)の各罪は刑法第四十五条前段の併合罪であるから其最も重き強盗傷人の罪に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役十二年に処した。

然るに原判決に記載ある前示確定判決は刑法第二十七条の規定に依り被告人は刑の執行猶予の言渡を取消さるることなくして昭和二十六年三月四日を以て其猶予期間二年を経過し刑の言渡は其効力を失つて消滅に帰し現に右確定判決は存在せないこととなつたから判示第一及第二の各罪の裁判に当り最早刑法第四十五条後段同第五十条の適用なきに至り単に刑法第四十五条前段に該当する併合罪として処断すべきこととなつた。是れ刑法に併合罪を規定した趣旨より明瞭で同第四十五条後段の併合罪は右の原則に対する例外に外ならないからである勿論原判決を言渡した昭和二十五年十二月二十七日当時は未だ前示確定判決の執行猶予期間中であつたから判示第一の各罪は前示確定判決の罪と併合罪の関係にあつて従つて原判決は法律の適用に誤はなかつた。けれども刑の執行猶予期間の満了した後に於ては原判決は法律の適用に誤を生じた違法の判決となつたのである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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